背景・目的

 金沢大学では、文部科学省の地(知)の拠点整備事業の採択(平成25~29年度)を受けて、大学の窓口を一元化し、地域関係者のニーズと学内外の研究シーズのマッチングにより課題解決的な「多 対 多」の研究プロジェクトを推進する体制を築いてきました。平成26年に石川県小松市よりデータヘルス計画の相談があったことをきっかけに、国保データベースを中心に高齢者健康データの地域特性を把握し、それをエビデンスベースの健康まちづくり政策につなげていくという研究課題の着想を得て、「地域包括ケアとエリアマネジメント研究会(ケアエリア研)」が発足しました。社会的課題の解決のために、看護学、公衆衛生学、神経内科(認知症専門)などの医学・保健学領域と、情報工学、都市計画などの工学領域と、経済学、財政学、社会保障論などの社会科学領域という、学際的な専門家が連携した研究会です。本研究会は、日本学術振興会から活動資金を得て、石川県小松市、羽咋市、七尾市などと連携して研究活動を重ねてきました。この過程の中で、健康データの「見える化」によって地域特性を踏まえた施策を展開する方法の有効性が明確になるとともに、さらに(1)予防に焦点を当てた保健対策の検証(糖尿病対策による認知症予防効果、高校疾患対策による要介護度進行の抑制効果)、(2)施設配置や災害対策などを見据えた「見える化」データの多領域への適用性(将来予測的なまちづくり)、(3)医療・介護経済の循環構造の把握と経済的な持続性のための政策構想、といった「予防型政策デザイン」のための発展的な研究課題を見いだすに至りました。

 本研究会は、基本的には地域政策研究であるが、情報工学、医学、都市計画に経済学アプローチを加えた、従来の個別専門分野の枠では収まらない「共創型」研究です。また、実現性を重視する社会実装と同時並行の研究スタイルは、理論専攻の実験室型研究とは一線を画した挑戦的な研究アプローチです。異分野の視点と政策現場に教えられる形で、新しい分析視角、知見、理論か可能性が次々と提起されてくることが、「共創型」研究のダイナミズムです。本研究会からは、以下のような知見が得られる見通しがあります。(1)認知症と糖尿病に相関があることは従来から知られていたが、データベースの記録と自治体・病院との連携によって、糖尿病対策の保健指導に認知症の予防効果があるかどうかが検証されたならば、認知症予防にとって大きな前進です。(2)口腔疾患が全身疾患と関係があるという問題提起が近年なされているが、データベースの記録と自治体・病院との連携によって、口腔疾患対策を取ることで要介護度の進行を遅らせることができるのか検証できれば、予防対策として重要な成果となります。(3)医療・介護経済を3曲面から定量的にとらえる方法論は存在していないので、もしこれが有効だと評価されれば理論的にも今後のスタンダードにつながっていく可能性があります。(4)高齢者の健康福祉データをまちづくりに反映させるためには、情報管理・共有の制度を整え、行政部局間の意思疎通をスムーズにして、現場と研究のコミュニケーションを重ねていく場を設定する必要があり、都市計画のデザインだけでなく、政策工程のデザインを含めて制度設計をあきらかにしようとするところに本研究会の新しさがあります。